日曜日の午後
流行なんてどうでもいいし、清潔で小奇麗に見えりゃ何でもいい。でも洗濯しないと着るものが無くなって会社行けなくなるし、皮脂の臭いは消臭剤を使ったって誤魔化せない。脂のにおいとミックスされて、悲惨なことになりますのよ奥様。仕方が無いから、洗濯だけは毎日渋々やっている。
掃除も洗濯も大嫌いだし、皿洗いなんて気が狂いそうになる。風呂上りのドライヤーとかマッサージとか、何の冗談なの。その分すぐに寝転んでネットしている方がいい。
多分、多分じゃないか、お察しの通り自分へのメンテナンスがどうも苦手なんだと思う。少しでも頭の中が暇になるのがすごく嫌。
一人暮らしなのに大鍋が揃っているのは勿論、食べることだけは大好きだからで。給料の大半は食材(調味料含む)と食器、鍋に注ぎ込んでいる。何でも大きい鍋で煮炊きするとおいしいし、一度にたくさん作れるから、安くて旬の食材を使えば最終的には家計にも優しい。そして誰もが呆れるほどものぐさな私でも、鍋一個くらいなら洗うのはすぐに出来る。
大枚はたいて買ったそれらが駄目になるのは悔しいので、仕方が無いから皿洗いも渋々やる。といっても、三日位放置することもあるのはご愛嬌。愛嬌なんですよ、ものすごいことになる前にはどうにかするようになったんだからいいじゃないか。
こんな風に何とか自分を動かして、最低限生きている。
文化鍋や鋳鉄鍋、色々な鍋の中でも特に好きなのが、新生児なら中で洗える位のサイズの両手アルミ鍋。昭和のその昔、どこの家庭にもあったあいつ。煮魚やったり大量のおでんが仕込まれていた薄黄金色のあれ。あれでキャベツを丸ごと茹でる。
芯は包丁で適当にくり抜き、湯の沸いた鍋へどかんと入れる。大きな鍋の中で、キャベツがぷかぷか浮かんでいるのを見るのはなかなか楽しい。
茹だってきた外側を一枚ずつ剥がして笊に乗せる。全部茹でたら、薄切りにされた豚バラ肉を広げて軽く塩胡椒。気力があれば、芯の部分を削いだり、それを小分けにしておいたしめじと一緒にしてキャベツを前後左右に畳む。そこに適当な長さに折ったスパゲッティを、畳んだキャベツに刺していく。
きちんとスモークされているベーコンもいいんだよね。給料日開けなんかは駅前の肉屋で、ちゃんとしたベーコンを買っておいて豚バラと同時に作るのが楽しみだ。
大小の葉を組み合わせ、同じような大きさに揃えてどんどん作っていると、楽しくて脳味噌から変な汁が出ている気がする。これらは全部、小分けにして冷凍。コンソメや出汁で煮たり、ホワイトソースをかけてオーブンレンジに入れて、グラタンみたいにしたり。楊枝を刺してもいいんだけど、抜くのが面倒臭いし、ごみが増えるのが嫌。
キャベツと肉を畳んでいる合間、ついでに残り湯で茹で卵も作る。酒とオイスターソースやナンプラー、醤油と五香粉を入れて軽く煮たてた汁に茹で卵を漬けておけば味付き玉子の出来上がり。ガス代は更にかかるけど、一度に出来るし一週間はもつから弁当のおかずに一つは悩まないで済む。
料理はいい。
やらなきゃいけないことを決めて、頭を忙しくさせることが出来るし、体も動かせる。色々なアイデアが浮かぶし、それで自分が「出来る人」みたいな錯覚を覚えてちょっと嬉しい。
何の趣味も無く、あんまり要領もよくない私が出来る数少ない得意なこと。何かを形に出来て、しかもおいしいこと。
疲れてお腹が空いている時の、あの飢えて苛々して獰猛な気持ちも、作って置いたあれこれ(ロールキャベツみたいな何かだけじゃなくて)ですぐにごはんが食べられると思うと何とか宥められる。
じゃないとすぐにコンビニへ駆け込んで、ケーキとかプリントかゼリーとか買い込んで食べちゃうからな! しかもそれ、この間杉山君に見られたからな! 「おいしそうですね」って生あたたか〜く微笑まれたからな! あああああ杉山君がご近所さんとは知らなんだ。だってもうガツガツモードになると弁当温めるの待つのも嫌だしさっさと済ませてお腹いっぱいになりたいし、甘いもの大好きなんだもん。
あの日もそんな感じで馬鹿みたいにたくさん買っちゃってたし見られちゃったし狼狽えた姿を見せるのも滑稽だしで「うん!」って威張って答えちゃって、更に色々なものを捨てた気がする。
ただでさえ省エネというか何というか、女性の末席を汚させていただいているという程度の、息をしているから生きているだけという位の省エネモードで日々を過ごしているのに、更に色々捨てちゃったらもう駄目だよな。
……うん? もう駄目って思うのは、まだ少しはなにがしかの希望を持っていたのか私。自分へのメンテナンスさえ面倒臭がる大年増がみっともないな。
こんなことを考えるのも嫌だから、頭に空白なんて作りたくない。
何もすることの無い日曜日の午後、だから私は料理を作る。私の為に。空白を埋める為に。